『WordPressのツボとコツがゼッタイにわかる本』の感想

最初の評価は最低だった

評価の難しい本ですね。Amazonのレビューを見ても賛否が分かれています。

私がWordPressの勉強を始めたとき、最初に読んだのはエビスコムさんの『WordPressレッスンブック』『WordPressデザインブック』(共にソシム発行)でした。

そして次に読んだのがこの『WordPressのツボとコツがゼッタイにわかる本』(中田亨・秀和システム)だったのです。

なぜこの本を読もうと思ったのかというと、著者の前作『ホームページ作成のツボとコツがゼッタイにわかる本』(中田亨・秀和システム)が大変素晴らしいものだったからです。

そこで中田さんのWordPress本に期待し、読み進めて行ったのですが、読み進むにつれて「なんか思っていたのと違う」という戸惑いがありました。
「エビスコムの著作と全く構成が違うんだけど、なんで?」という思いがよぎりました。

我慢しながら読んでいたのですが、第4章に入ったあたりでとうとう本を投げ捨てたのでした。

何とかがんばって第4章まで読んでみたものの、実際に理解できたのは第1章「WordPressでホームページを作るメリット」だけでした。第2章以降は何を言っているのかさっぱり理解できなかったのです。

実はこの本の特徴としては、WordPressの仕組みの説明に紙面を割いている点が挙げられます。第2章の部分ですね。
しかしWordPressの初心者本を読んだだけの人間がいきなり第2章を読みこなすのはなかなか難しいです。不可能とまでは言いませんが、結構大変でしょうね。

第3章についても同じです。
第3章は「ホームページをWordPressに乗せ換える準備をしよう」とのことですが、何のためにその準備が必要なのかが理解できません。

のちに分かったのですが、結局のところ、第2章・第3章を理解するためには最低限「WordPressのテンプレート階層」を理解している必要があったのです。

つまり

「WordPressを使うためには基本のテンプレート(index.php)を作成する必要がある。基本テンプレートだけでもWordPressは使えるけれど、特別のテンプレートを作った場合は特別テンプレートが優先的に使用される」

というWordPressの仕組みそのものの理解が必要だったのです。
その知識がないと2章・3章は読みこなせないでしょう。

本書は第3章までが理論の説明となり、第4章以降でホームページにWordPressを組み込む具体的な手順の説明にはいります。

けれど私はここで力尽きました。
第2章・第3章で苦しめられた者が4章以降を乗り切るのは容易なことではなかったのです。

この本を見限らなかった理由

しかしそのような状態でありながらも、私はこの本を見限りませんでした。この本が悪いのではなくて、私の理解力が不足していると考えていました。

なぜそう考えたかというと、著者の前作『ホームページ作成のツボとコツがゼッタイにわかる本』が大変素晴らしいものだったからです。

前作の、「全体を見渡したうえでホームページを作成していくという手法。共通部分を先に作り、その後、個別ページを作成していくという手法」が丁寧に説明されていたのが素晴らしかったのです。

この手法はホームページを制作する人であれば当然に行うものです。
けれど初心者向けの本でそれを意識的に伝えているものは意外と少ない気がします。

そのような著者の、しかも同じ『ツボとコツ』シリーズなので絶対に前作と同程度のレベルのはずだし、読者のことを考えた構成のはずだと思っていました(のちのち気づくのですが、レベルについては前作と同程度とは言えないと思います)。

とはいえ、全く理解できていない私がいつまでもこの本にしがみついても仕方がありません。
そこで残念ではありますが、一旦この本を離れ別の本で勉強することにしたのです。

この本の意図するところ

その後、何冊かのWordPressの本を読み、ようやくWordPressがテンプレート階層になっているらしいということを学びます。
それ以外にも、WordPressに関する知識も増えました。

そういった状態でこの本を再読したとき、ようやくこの本がそれほど悪い本ではないな、ということに気づきます。

前作と同様、全体を考えたうえで構成していることが分かります。ひとりで一から作成出来ることを目的としていることが分かります。

特に私がこの本で一番評価しているところは、第3章の最初の2ページです。

このページにはWordPress型のホームページを作るときの手順がはっきりと書いてあります。

この本の提示する作成手順は

  1. 最初に静的サイトを完成させる
  2. その後、WordPressを組み込んでいく

ですね。

多くのWordPress本は、この手順を明示していません。
手順自体は本書と同じであっても、はっきりと明示している本は少ないです。あるいは本書とは違う方法で、たとえば静的サイトを作りながら同時にWordPressを組み込んでいく本もありますね。

本書のように作成手順をはっきりと明示してくれることは初心者にとっては安心につながります。
また、本書に書かれている方法が唯一絶対の作成手順ではありませんが、それでもこの手順が最も失敗の少ない、手堅い手順だと言えます。

その他にもこの本では

  • 共通部分からテンプレートを作っていく、とか
  • 簡単なテンプレートから作っていく

などのように、作成手順の指針を示しており、一からWordPress型ホームページが作れるように配慮した記述が見受けられます。

この本の悪いところ

こうして現在ではこの本を高く評価している私ですが、この本にも欠点があります。
気になる点はいくつかありますが、特に問題と感じるのは次の2点です。

問題点1・初心者向けではない!

この本の最大の問題は、「初心者向けではないのに初心者向けの顔をしているところ」です。

私はこの本の感想として、最初に「本書はAmazonレビューの賛否が分かれている」と書きました。

Amazonのレビューを詳しく読むと、この本に高い評価を付けているのはほぼ全員、この本以前に他のWordPress本を読んだことのある人たちばかりであることに気づきます。
反対に、最初にこの本を読んだ人たちは酷評の嵐です。

なぜこうなるのでしょうか?

大雑把な分類であることを承知の上で書くと、WordPressの勉強レベルは2種類あります。

単にWordPressを使ったホームページ制作手順のみを勉強するレベル(手順レベル)と、WordPressそのものの理論構造まで突き詰めるレベル(理論レベル)です。

多くのWordPressの入門書は手順レベルの解説がメインです。

ところが本書は入門書向けの顔をしながら、理論レベルに踏み込んだ記載をしています。というよりも理論を先に提示してから手順レベルの説明に取り組んでいるといったほうがいいでしょう。

既に手順レベルの入門書を読んだ読者であれば、本書が提示する理論と個別具体的な手順を結びつけて考えることができます。

このような層は、具体的手順は分かるのだけれどなぜそうなるかが分からないという疑問を抱えており、その疑問が本書で解決するため、本書に納得するわけです。

ところが全くの初心者の場合、本書が提示する理論と具体的手順を結びつけて考えることができません。
具体的な事柄を何も知らない状態なのに、理論だけを延々と説明されるため、議論についていけなくなるのです。

Amazonのレビューの評価が分かれる理由がここにあります。

もちろん著者としては、全くの初心者であっても理論的にWordPressを使いこなしてほしいという思いから執筆に工夫を凝らされたのだと思います。
しかしながら結果論になりますが、その試みが成功しているとは言い難いですね。

本書は入門者向けシリーズの一環として出版されていますが、本書の内容を見るかぎり「脱初心者向け」「中級者を目指す人向け」の本とするのが適切であったように思います。

問題点2・ファイルはこまめにアップロードして!

本書では第4章以下で具体的な作業に入ります。
ですが作成したファイルをサーバーにアップロードするのは、第5章の最後、すべてのファイルを作成し終えて以降です。

このようなWordPressの組み込み手順は、理想的といえば理想的なのですが、初学者を対象とした本においては採るべき手法とは思えません。

なぜなら初学者はコードの記載をミスしているおそれが強く、最終段階で一気にファイルをアップロードしてもホームページが適切に表示されない可能性が高いからです。

この場合、ミスを修正できるのであれば問題はないと言えるのかもしれませんね。
しかし最終段階でまとめてミスを修正する手法は、修正個所の特定が難しくなるためお勧めできるものではありません。

やはり初学者にはこまめにファイルをアップロードさせ、不具合が発生すればその都度、ミスを修正していく手法を採らせたほうが良かったのではないでしょうか。

それにもかかわらず著者がこのような手法を採らなかった理由を私なりに推測してみます。

ファイルをこまめにアップロードする手法を採らせる場合、必ず最初にindex.phpとstyle.cssをアップロードしなければなりません。そうしないとWordPressが起動しないからです。

ですがそれをすると著者が理想とするWordPressの作成手順が崩れるため、その点を嫌がったのかな? と思ったのですがどうでしょうか。

総合評価

最後に私の評価を書きます。
私がこの本に下した総合評価は、星4つです。

★★★★☆

読者層のズレを根拠に星3つにとどめるか、あるいは著者の意気込みを評価して星4つにするかで迷ったのですが、最終的に星4つとしました。

この本が最初から「脱初心者向け」「中級者を目指す人向け」だと世の中に伝わっていたら、Amazonレビューの低評価は減少したのに、と思うと大変惜しい気持ちになります。